「本当に呼ぶとは思わなかったし」


はぁ?威圧的に呼べって言ったのは、あなたでしょ!!


「・・・・・・」



「ありがとう」



そう言って私の方をちらっと見た顔は、照れくさそうだった。


「いいえ・・・・・・」



佐々木先生の照れた顔に私までも顔が熱くなった。


なぜこの人は、私をこんなにも惑わすの・・・・・・。


心臓が無駄に働かせてしまった。


あぁ、早死にしそう。



私が落ち着こうと窓の外を見た時、私のスマホの着信音が鳴った。


「あっ、母からだ・・・」



しまった、遅くなるの言ってなかったし。



「もしもし」


『睦美?』


「お母さん、ごめん。急に食事に行くことになって」


『そうなのね。それならよかったわ』


「ごめんね、もう帰るから」


『いいのよ。ゆっくりしてきたらいいのよ』




そう言い、電話を切るとすぐに瞬さんは

「ごめん、俺時間見てなかった。もう23時やし」

と謝ってくれた。


「いつの間にそんな時間になってたんやろう」



その私の言葉に彼は嬉しそうに「よかった」と言ったが、私にはその言葉の意味が分からず、頭の上に「???」を並べていたのを気付いたのか、説明をしてくれた。



「つまらなかったら、時間が過ぎるの遅く感じるやん?でも、いつの間にかってことはつまらなくはなかったってことかな?」


確かにつまらなくはなかったけど、それ以上に動揺ばかりさせられていたから、時間が過ぎるのを早く感じたのだろう・・・。



「・・・・・・よくわからないです」


そう、私の今の気持ちも、彼への気持ちも「よくわからない」これがぴったり当てはまる。



「そう、じゃぁ、家まで送るよ」


「はい」


ごめんなさい。


「よくわからない」なんて言って・・・。


上手く自分の気持ちを表現できなかったことが、とても申し訳なく感じていた。


「なぁ、俺、お前のお父さんに殴られるかな?」



佐々木先生の顔は、言葉に反して、少し笑みが零れているように見えた。



「殴られる?」



「あぁ、嫁入り前の娘さんをこんな遅くまで連れまわした悪い男だからね、俺は」



「ふふふ・・・・・・大丈夫ですよ。父が怒るところなんて見たことないから」


「ならよかった」



よかったとか言いながら、元から大して心配していないのが表情でわかった。


そして、これから起こることを私は予想もできなかった。