「お前さ、こういうこと言うと、すぐに黙るよな。おもしろい」
暗いのでよく見えないが、おそらく満面の笑みだ。しかも声を出して笑っている。なんてレアな状況なの・・・じゃなくて!
「ひどっ!からかってたんですか?やっぱりドSですね!」
思わず出てしまった言葉に後悔しても、時すでに遅し。
ドSの男の顔は、怪しげに笑っていた。
「今、何て言った?」
しまった!勢いに任せて「ドS」なんて言ってしまったし。
「いえ・・・・・・何も」
無意識のうちに姿勢を正して、自分の発言がなかったことになることを祈っていた。
「ドSとかどうとか聞こえたんやけど?」
「しっかり聞こえてるじゃないですか」
「許して欲しい?」
「・・・・・・はい」
許して下さい、お願いします・・・・・・。
「じゃぁ、これから睦美って呼ぶからな!」
「へ?」
突然呼ばれた名前に私は目を丸くして運転席の男を見た。
「お前は、俺のことを『先生』って呼ぶな」
・・・・・・呼ぶなって。何て俺様なんだろう。
「じゃぁ、何て呼んだらいいのですか?」
「瞬」
「しゅ、瞬!!」
思わず大声を出してしまい、「お前うるさい!」と注意されてしまった。
「で、でも、しゅ、しゅ・・・」
「じゃあ、さっきの許してあげへんで」
・・・・・・やっぱりドSやん。
「・・・・・・」
「わかった?」
返事を促すように聞かれた言葉には、『拒否はできないからな』と含まれているように感じられた。
「・・・・・はい」
私は多少抵抗をし、小さな声で返事をした。
「声が小さい!」
そんなささやかな抵抗でさえも、この俺様ドクターは許してくれなかった。
「わかりましたっ!!」
もうやけくそだし!!
「じゃあ、呼んで」
はぁ?今何と?
「名前で呼んで」
やっぱりドSじゃない!
どう考えても、佐々木先生を『瞬』なんて呼ぶなんて無理。
百歩譲って『瞬さん』も無理。
でも、おそらく目の前の俺様ドクターのことだから、呼ぶまで許してくれないだろう。
頭の中でグルグルと考えても、最後には『呼ぶしかない』という答えに辿り着く。
どうやら私には、選択肢はないらしいことに気づいた。
「・・・しゅ、しゅ・・・瞬さん」
これが限界です。
許して下さい。お願いします。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何も言わんのかい!!