「何か、嫌いなものあるか?」
メニューを見ながら先生は聞いてくれることに緊張してしまった。
「いえ、なんでも食べられます」
「ははは、お前、何でも食べそうやもんな」
「それ、バカにしてません?」
「してない、してない」
と言ってるが、完全にバカにされている。
それを証拠に、笑いを堪えながら注文している。
そのバカにした笑いに私が膨れて、顔を逸らし、窓の外を見ていると、
「いらっしゃいませ」
と低い声が聞こえたので振り返ると、お店のユニフォームに身を包んだ男性が立っていた。
「瞬が、女の子を連れてくるなんて珍しいな」
髪を短く整え、笑顔が素敵なその男性は、佐々木先生と親しげに話していた。
「雄哉、お前、出て来なくていいのに」
「親友に向かってその言い方はないやろ?それより、彼女?」
雄哉さんという人は、私の方を向いて単刀直入に聞いた。
か、彼女?
「そんなんじゃないから」
頬杖を付き、じゃまくさそうに答えていた。
「え~そうなん?」
疑いの目で私を見ると、何かを催促されているようだったのが、何も言うことができなかった。
「瞬がお世話になっています。こいつ、仕事ばっかりやけどよろしくね。あっ、名前は?」
「こちらこそ、佐々木先生にはお世話になってばかりで・・・」
私がしどろもどろになりながら言うと、雄哉さんは目を丸くして佐々木先生に詰め寄った。
「お前・・・先生って・・・患者に手を出したんか!!」
「えっ??」
二人の声が重なると同時に雄哉さんは「違うのか?」と落ち着きを取り戻した。
「アホか、お前は」
呆れた顔をして、佐々木先生は雄哉さんを睨んでいた。
「私は、立花病院で看護師をしている、百井といいます」
睨まれている雄哉さんを見ながら言うと、彼は目を輝かせて始めた。
佐々木先生と違って、すごく表情が豊かであることに感心した。
「看護師さんなの?瞬もやるなぁ」
「だから違うって言ってるやろ。お前の考えてるようなことはない!」
頭をだるそうに振りながら言う佐々木先生に雄哉さんは負けていなく、
「僕の考えてることって?」
とニヤニヤしながら聞いていた。
「どうせ、医者と看護師と聞いて、良からぬことを考えてたんやろ?この変態が!」
へ、変態って・・・。
「言ってくれるね、瞬ちゃん。お前こそ、ドSのくせして!」
ド・・・ドS!
「はぁ?お前、何言ってるんや!」
完全に私は一人取り残されて、「変態」「ドS」の言い争いを見るしかなかった。どっちも大した差がないような気がするのは気のせいか?
「こいつね、いじめるのが好きみたいやから、気をつけてね」
意味深な笑顔で変態は、私の耳元でそう言った。
「アホなこと言うなって!なっ?お前、真に受けるなよ!」
「は、はい」
眉間に皺を寄せて言われたので、素直に返事をするしかなかった。
「雄哉もさっさと行けよ。邪魔!」
消えろと言わんばかりに手を振り、雄哉さんを立ち去らせた。
「ごめんな、変な奴で。あいつあれでも、ここの店長」
口元を触りながら、佐々木先生は口を開くのを見て、つい笑ってしまった。
「何、笑ってるんや?」
「いや、仲がいいんだなって思って」
「そうか?」
「そうですよ」
眉をひそめて首を傾げる佐々木先生に、笑いながら言った。
ああいう風に言い合えることは、仲がいい証拠なんだと、私は思う。