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「もも、今日佐々木先生がアメリカに行く日でしょ?見送りに行かなくていいのか?」
休憩中、食堂でハンバーグを食べながら束ちゃんが私に聞いてきた。
「うん。いいの」
そう答えると、周りからも「え~なんで?」という声が聞こえた。
「師長さんも知ってるんだから、有休とかもらえたんじゃないですか?」
覗き込みながら聞く愛ちゃんも少し心配そうに見ていた。
「師長さんも、そう言ってくれたけど、断ったの。
見送りに行ったら、行く時は2人やけど、帰りは1人やん。
それほど淋しいことはないからね」
食べ終わった食器に焦点を合わせて言うと、私は立ち上がり、「お先です」とだけ残し、食堂をでて屋上へ向かった。
11月に入ったばかりだが、今日は12中旬並みの気温で、風も強かった。
屋上は、職員以外立ち入り禁止なので、今は私しかいない。
しかも、こんな寒い日にこんな所に誰も来るはずもない。
私は、カバンの中のスマホを取り出した。
『受信メール 1件』
「あっ、見えにくいな・・・」
明るい外ではスマホの画面は見にくく、建物の影に身を潜めえてメールを読んだ。
『俺が帰るまで
待ってろ。
得体の知れない男
を相手にするな。
ありがとう、睦美。
いつでも連絡をくれたらいい。
仕事はほどほどにしろ。
手料理は俺以外には食わすな。
留守は頼んだ。』
「なに・・・この文章」
不自然に改行されていて、内容がバラバラの文章・・・・・・。
全く意味が分からない。しばらくメールを見つめていると、謎が解けた。
「・・・・・・瞬さんのアホ!」
『おまえをあいしてる』
頭文字はそう言っていた。
次々と落ちていく涙は、屋上のコンクリートの上に落ちて水溜りになってしまいそうだった。
昨日、あんなにも泣いたのに、まだ涙がでるんやな・・・人間ってすごいな。
深呼吸を1つ付き、私は陽のあたる場所に出て空を見上げた。
秋空に浮かぶ1機の飛行機。
「そろそろ出発したかな」
ゆっくり動く飛行機を眺めながら、呟いた。
さっきまで流れていた涙は、急に吹いた秋の風によって乾かされた。
そして、あなたがはばたく空に向かって大きく手を振り、胸のリングを握り締めると、私は屋上を後にした。
『瞬さんに
伝えたいことがたくさんありすぎて
手紙とかじゃ足りないよ。
魔法にかかったように
好きになってしまいました、あなたのことを』
―――お前を愛してる―――
―――知ってます―――
fin