「瞬さん・・・・・・」


「でもさ、俺の勝手な夢に睦美を引き込むわけにはいかないしな」


自分自身を説得させるように、彼は俯いて「そうそう。そんなことできへん」と呟いていた。


「私も耐えられへんもん」


そう言い終わる頃には、涙が溢れていた。


「いつの間にか、私の中に入り込んで・・・でかい顔して居座って・・・それやのに離れてしまうなんてさ・・・ありえへん。勝手すぎるんよ」



溢れる涙をハンカチで拭くと、私は続けた。



「いつもいつも勝手で、俺様で・・・でも優しくて・・・私のことを一番に考えてくれている・・・・・・そんなあなたのことが大好きなんよね・・・」


そう言うと、子どものようにニカッと笑って照れ隠しをした。


「睦美・・・・・・・ありがとう。俺も睦美のことを愛してる」


ほんま反則。

せっかく涙が止まったのに・・・「愛してる」なんて言わんといてよ。


だから・・・わざとこんなことを言ってしまった。


「でもさ・・・・・・これ何よ!サイズ合ってないし!私こんな指太くないし!」


そう、私の薬指の指輪は、若干、いやかなり大きかった。


そのため指輪はクルクルと回るし、落ちてしまうのでずっと気をつけておかなくてはいけない。


「いきなりなんやねん!俺、指輪なんて買ったことなくてサイズが分からなかったからさ・・・・・・
店員も直しができるからって言ってたから・・・俺のサイズにしてもらった」


頭を掻きながら、「情けねぇ」なんてぼやきながら言う彼を見ていると、笑いがこみ上げてきた。


全然、俺様ドクターじゃないし!


「ありがとう」


こんなに情けない姿を見ることができるのも、きっと私だけだと思ったら、ますます愛おしくなってくる。


あ~顔がにやけてくる。


「睦美、指輪貸して。サイズ直してからもう1回渡すから」


手を伸ばして、私から指輪を取り返そうとする彼に、私は左手をテーブルの下に隠した。


「嫌っ!」


「はぁ?そんなん大きすぎるやろ?」


眉間に皺を寄せて、「早く!」と言わんばかりに手をさらに伸ばした。


「嫌やもん。だって・・・・・・これがあったら、瞬さんがいなくても瞬さんの大きさを感じられるもん」


そして、自分の目の前に指輪をかざしてクルクルと回しながら「やっぱり瞬さん指太いね~」と独り言のように言った。



「やばっ、可愛いこというなって」



伸ばした手を引っ込めると、その手を口元にあてて、私から視線を逸らし、壁の方を向いた。


その時、私から見えたのは、少し赤くなった頬だった。


可愛いのは、あなたですよ。


そう、あなたのそんなギャップにもやられてしまったんだ。


しばらく、彼の横顔を見つめていると、急に彼は「帰るぞ!」と席を立った。


出たよ、俺様!でも、そんな俺様彼氏に逆らうことができないのは、紛れもない私なんだ。