「仲が良さそうで」
個室ののれんを少し開けて、顔をのぞかせたのは、雄哉さんだった。
「雄哉、客の話を盗み聞きとは趣味が悪いな」
「人聞きが悪いこと言うなよ。睦美ちゃん、いらっしゃい」
瞬さんに向ける顔とは真逆の笑顔を私に向けた。
「あっ、俺、結婚するから」
雄哉さんを見上げて宣言する瞬さんは、とても男らしく見えた。
「マジで?お前ら付き合ってどれくらい?」
少し驚いた表情をして彼は、私たちに聞いてきたが、瞬さんは表情一つ変えず、「半年ちょと」とだけ答えた。
「半年?」
さらに目を丸くす彼は、「睦美ちゃん大丈夫?」なんて声を掛けてくれた。
「どういう意味やねん」
不機嫌そうな瞬さんは、頬杖をつき、睨んでいた。
「いや、1年足らずで・・・」
「まぁ、俺、アメリカに行くから、実際結婚するのは2年後になるんやけどな。」
雄哉さんの言葉を遮るように言った瞬さんの口調は、落ち着いたものだった。
「アメリカ??睦美ちゃん・・・・・・ついて行かへんの?」
「お前、ほんまうるさいな」
呆れ顔の瞬さんに、私はゆっくりと思いを伝えた。
「私は、今やりたいことがあるんで、ついて行けないんです。寂しいですけど、頑張って待ってます」
恥ずかしいのを抑えて、瞬さんの顔を見ると、彼は私を見守るように優しい顔をしていた。
「いやぁ、いいねぇ」
と、目を細めて雄哉さんは「またお祝いさせてよ」と続けた。
「ごゆっくり」
店長らしく、振舞うと、私たちの前から立ち去った。
雄哉さんの背中を見つめ「いい人やね」と呟いた。
「そうやろ?でも惚れるなよ」
「どうかな?」
わざとこんなことを言ってみるんだ。
彼の拗ねた顔が見たくて。
「はぁ?お前何言ってんの?」
膨れながら言う彼は、明らかに雄哉さんに嫉妬していた。
こんなことで愛されてるって思ってしまうんだ。
「ふふふっ、私には瞬さんだけだから大丈夫」
少しぶりっこして言ってしまった自分が恥ずかしくて、残り1つの鶏の甘酢あんかけを頬張った。
「あ――!俺の!!」
声を上げる彼が面白くて、ついつい笑ってしまった。
こうなってしまうと彼は、子どものように拗ねてしまう。
「ごめんね」と謝っても「食い物の恨みは怖いんやから覚えておけ」と真顔で言うんだ。
小学生か!!
心の中でツッコミを入れていると、目の前の男は、「そういえば・・・」と何かを思い出したかのように言った。