「高井さん、体調はいかがですか?」
「あぁ、最近は調子良くてな」
嬉しそうに話す高井さんは、1週間前に退院した高井総一郎さん。
そう、食べ過ぎで腹痛を起こした高井さん。
「それはよかったですね」
こうやって話しているうちに注射は終わってしまう。
痛いこともできるだけ知らないうちに終わらせてあげたい。
これはベテランになっても忘れたくない。
その後も休みなく処置室には患者さんが来て、結局、不機嫌な佐々木先生と接することはなかった。
ん?待てよ・・・さっきもそんなに不機嫌じゃなかったよな。
そんなことを考えていると、
「百井さん、外来の診察終わりました」
斉藤さんが声を掛けてくれた。点滴をしている患者さんもいないし、処置室前で待っている患者さんもいないので、私は後片付けを始めた。
そして、私は処置室のドアの鍵を閉めて、診察室を横切ろうとした時に、1診の電気だけが付いているのに気付いた。
まだ、誰か残っているのかな?
そう思い、そおっと覗いて見ると、佐々木先生が真剣な顔でパソコンと向かい合っていた。
あまりにも真剣な表情だったので、軽く声を掛けることができず、固まってしまっていた。
その私の様子は、かなり怪しいものだろう。
壁にべったりとくっついて、顔を覗かせているのだから。
しかも、あまりにも見過ぎていたので、気付かれてしまった。
「何してんの?覗き?」
視線だけをこちらに向けて話す佐々木先生の口調と表情が冷めていて、立ち止まったことを後悔してしまった。