「・・・・・・この前、救急に行くって話したやろ?その前に、アメリカに行って来ないかって言われてるんや」
「・・・・・・」
はい、わかっていますよ。
でも、私が聞きたいのは、そんなことじゃないんよ。
なぜ、話してくれなかったってこと。
彼の視線を感じながらも、私は彼の方を向くことはなかった。
「怒ってるよな?黙ってたこと」
怒ってる?
そんなものじゃない?
悲しかった・・・んだ。
何でも話してもらえると思っていたのに・・・・・・一番大切なことを話してくれないなんて・・・。
怒りを通り越して悲しかった。
「俺も、睦美には話そうと思っていたんやけど・・・自分の中でどうしたらいいかわからなくて・・・・・・」
わからないって・・・?
私は彼の言ってることの方がわからなかった。
「アメリカに行って勉強したいってのは前から思っていたから、高畑部長から話しをもらった時は、嬉しかった。
でも、行ってしまったら、2年は帰って来れない。
俺さ・・・睦美に結婚しようなんて言ったのに、俺の都合で2年も会えなくなるなんて無責任なことはしてはいけないような気がした・・・。
すぐに結婚してアメリカに一緒に行くことも考えたけど・・・・・・
主任になってようやく納得のできる仕事ができるようになってきている睦美から仕事を奪うこともしたくなかった・・・・・・。
だから・・・・・・このまま・・・・・・」
彼は、頭を抱えて、溜息をついていた。私は、その姿をようやく目に入れることができた。
「そんなん・・・・・・言い訳にもなれへん」
辛そうな横顔を見つめて、冷たく言った。
「・・・・・・」
「結局、どうしたいわけ?アメリカに行きたいん?」
急に声を荒だてた私に対して、彼は目を丸くして驚いているようだった。
「・・・・・・睦美?俺は・・・」
「私は・・・瞬さんがアメリカへ行くとかどうとかよりも、そんな大切なことを話してくれていなかったことが・・・・・・悲しい」
今まで我慢していた涙が、次から次へと流れてきて、私の手の甲やスカートを濡らした。
静まり返った部屋は、私のすすり泣く声だけが鮮明に聞こえていた。
「睦美ごめん・・・」
まだ謝るの?ねぇ、何も話してくれないの?
彼の何度目か分からない「ごめん」という言葉に私は、未来を見ることはできず、目をギュッと瞑った。