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ずっと黙り続けている瞬さんの横顔を一瞬だけ見ると、私は車の外の流れる景色に目をやった。
「睦美、ごめん」
運転しながら彼は、つぶやくように言った。
ごめんってどういう意味?
「とにかく話をしよう」
向かっているのは、彼の部屋であることは容易に想像できた。
「はい」
と返事はしたものの、いったい何を話するのだろうか?
アメリカへ行くこと?
・・・・・・だいたい予想はできる。
一度経験しているから。
また、私はこれ以上逃げる場所はない。
どうしろと言うのか?
お互いに何も話すことなく、車は走り続けた。
私は窓の外の景色をただ眺めていた。
視覚としては入って来るが、脳へと伝達されていないようで、何を見ても何も感じることはなかった。
それくらい私の頭は、どうにかなっていった。
「どうぞ」
いつものように、私を迎え入れてくれる瞬さんの部屋は、いつもと変わりはなかった。
朝、慌てて出たのか、パジャマがその辺りに散らかっていた。
彼は、パジャマを手で拾い、丸めるようにしてリビングから洗濯機の方へ向かった。
何とも言えない沈黙が耐えることができなかった。
心が通い合った上での沈黙は、苦にならないが・・・・・・今は苦痛でしかたない。
つまり、心が離れてるんだ。
私はそう思った。
沈黙から解き放たれたいが、テレビをつける雰囲気ではない。
私は、リビングのソファに座り、自分の手ばかりを見つめていた。
彼は、いつものようにお茶を入れてくれ、私の隣に少し距離を置いて座った。
「睦美・・・・・・ごめん」
静かに謝る彼の心がわからなかった。
なんでそんなに謝るの?
ねぇ?
何も言ってくれなかったの?
「・・・・・・」
責めたてたいのに言葉が出ない。
完全に受け身になっている。
これじゃ、神尾先生と付き合っていた時と同じやん。
自分の中でも、自分自身と戦っていると、ようやく彼は口を開いた。