申し送りも終わり、私は外来処置室に向かった。
「今日は、ももちゃん?」
私の姿を見るなり、ベテラン外来看護師の赤木さんは声を掛けてくださった。
「はい」
「じゃぁ、あとよろしくね」
「はい、お疲れ様でした」
簡単な申し送りを終えて、私は、赤木さんと交代した。
赤木さんは、私の母親くらいの年齢で、病棟看護師とはまた違ったことを教えてくれる。
入院患者は、院内にいるので、急変にもすぐに対応できるが、外来患者はそうはいかない。
だから短時間で、その患者さんのことを知ってあげなくてはいけない。
「斉藤さん、これ抜けてるよ」
私は、カルテの記載ミスを見つけたので、外来の診察室の傍にいた事務の斉藤さんに声を掛けた。
「あっ、すみません」
5歳も年上の看護師にミスを指摘されたので、慌てて事務所に内線を掛けていた。
そして、私が処置室に戻ろうとした時、ある視線に気付き向くと、頬杖を付く佐々木先生だった。
しまった・・・・・・向いてしまった。
関わらないでおこうと思ったのに・・・。
これで無視したら、余計機嫌が悪くなりそう・・・。
「先生、お疲れ様です」
「今日の外来の処置室はあんたか。若い子をいじめるのもほどほどにな」
そう言うと、器用にペンをくるりと回して笑みをこぼしていた。
「いじめてませんから」
私は、佐々木先生を睨むと、処置室へと戻った。
はぁ、何よ!いじめてるかっつうの!
私は、腹を立てながらも、次の注射の患者さんを呼んだ。