「じゃあ、もう1回キスしてやろうか?」


「はっ?」


「なぁ、睦美・・・・・・」


顔がどんどん近付いてくる・・・しかも艶っぽい目で。


いや、ここじゃまずいから!


もうすぐ御両親が戻って来るやん!


あっ、広いからまだ時間がかかる?


・・・・・・そういう問題じゃない!!



自分の中でいろいろ考えていたが、全く口にはできず、彼から離れようと後ずさりした。



「しゅ・・・瞬さん・・・ここじゃまずいよ・・・」


ようやく口にできた言葉に対して、彼はクッと口角を上げて悪戯っぽく笑った。



「冗談やって」


・・・・・・また騙された。



そうこうしているうちにリビングのドアが開いたので、私は背筋を伸ばした。



「いらっしゃい、睦美さん」


低くて柔かな声が聞こえたので、私は立ち上がり、「百井睦美です。よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。



顔を上げてお父様の顔を見ると、ニッコリと笑ってくれていたので安心した。


白髪混じりの髪と整えられた髭が印象的で目元が瞬さんに似ていた。


「俺も帰って来てるんやけど?」


少しムッとした感じで瞬さんが言うと、「お前が、早く睦美さんを連れて来ないからやろ」とお父様は言いながら私達の向かいのソファに座った。


「そうよ、やっと睦美さんに会えて嬉しいわ」


お母様まで後に続いた。


目の前には瞬さんのご両親。緊張のピークのはずが、少し落ち着いてきた。

それは、きっと瞬さんが無理に私をここに連れて来たのではなく、御両親に言われて連れて来てくれたことがわかったからだ。


「本当にかわいいね、睦美さん」


お父様の言葉に「いえ、そんな」としか言うことができなかった。


「立花病院で働いているんやってね。立花院長とは同級生でね、今でもよく飲みに行ったりしてるんだ」


「あっ、そうなんですね!」


そりゃ、同じ市内でいるのだから何らかの接点はあるとは思っていたが、同級生とは思ってもみなかった。


「それに、三谷師長は私の同期なの」


お母様が続いて話した言葉に私は疑問が浮かんだ。


「同期ですか?」


同級生ではなく??


「あっ、睦美言ってなかったかな?母さんは、看護師なんや」


「えっ??」


思わず勢いよく瞬さんの顔を見てしまった。


看護師??聞いたことないし!!


「あら、話してなかったの?」


「あぁ、忘れてた」


忘れてたじゃないし!!


見たことがある気がしていたのは、何かの勉強会でお会いしたことがあるってことじゃないの?すごく失礼やん!


「睦美さんのお話は、三谷さんから聞いてあるの。

ごめんなさいね。

でも、ものすごく優秀で患者さんからの信頼も厚いってべた褒めしてたわよ。

あんな子滅多にいないって」


えっ・・・それって・・・。


「師長さんは、私達のことを知っていたんですか?」


おそるおそる聞くと、隣りの彼はお茶を飲みながら「あぁ、そういうこと」と少しばつが悪そうに言っていた。


あっ、だから師長にはきつく言えないんや・・・。

なるほど。


妙に納得していると、突然話が進み始めた。