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「ただいま~」
落ち着いた声で言う瞬さんの隣で、私は再び固まっていた。
家に入ると、広い玄関に高い天井。
高そうな絵が飾ってある。きれいな花も生けられている。
「睦美、入って」
「あっ、おじゃまします」
私は、深呼吸をひとつついて、靴を脱ぎ、佐々木家に上がった。
「こっち」
手招きされる方へと足を運ぶと、瞬さんは目の前のドアを開け、再び「ただいま~」と言い、私をその部屋の中へと入れてくれた。
「おかえり、早かったわね」
高く上品な声が聞こえたが、私の前に瞬さんがいたので、その姿までは見えなかった。
「睦美」
名前を呼ばれて、私は手を引かれるようにしてリビングに入った。
「あら、睦美さん?」
目の前に現れたのは、まるで女優さんのようにきれいな女性だった。
この人は・・・お母様よね?
「あっ、私・・・百井睦美と申します」
しどろもどろになりながらも挨拶ができた。
「はじめまして、瞬の母です。睦美さん、お茶入れるから座ってね」
お母様は優しい口調で私に声を掛けてくれたので、少し落ち着くことができた。
それにしても・・・キレイ。
瞬さんが32歳だから・・・50歳は越えてるよね・・・全然見えない。
・・・でもどこかで見たことがあるような・・・・・・。
テレビに出てる女優さんとかに似てるのかな?
私の頭が混乱したままで、整理できずにいると、瞬さんにソファに座るように促された。
「ありがとうございます」
これまた高そうなソファに体をしずめた。
「お茶どうぞ。睦美さん、楽にしてね~」
「あ、ありがとうございます」
もう緊張しすぎて、気の利いた言葉なんて言うことはできなかった。
「じゃぁ、お父さん呼んでくるわね」
そう言うと、お母様は、リビングを出ていってしまった。
残されたのは、私と瞬さんだけで、広いリビングは、静まり返っていた。
「まだ緊張してる?」
「はい・・・」
そりゃそうだ・・・これから瞬さんのお父様に会わなくてはいけないんやから・・・・・・。
しかも・・・誠泉病院の院長先生・・・・脳外科医としては全国的にも有名なんやから。