「瞬さん?」
勇気を出して声を出してみると、少し腕の力が抜けた。
腕の力は緩んだが、それでも彼は何も言ってくれず、私は話題を探した。
彼の表情は真剣で、その眼を見ると、固まってしまいそうだったので、見ることはできなかった。
「あのね、私さ、ブーケトスのブーケを取ったんやで!
一番後ろにいたんだけど、みんなの頭の上を通り過ぎて、私の所へ飛んで来たんやで!」
私は、瞬さんの腕からすり抜けて、リビングの端に置いた引き出物紙袋に入ったブーケを取り出した。
まるで花嫁さんのように両手で持ち、彼の前に立ち、ニッコリと笑って見せた。
彼の目をじっと見つめて・・・・・・。
反応を確かめるように。
「うん、本物の花嫁みたい」
私を見守るような優しい笑みで言ってくれたのは嬉しかったが、本当に言って欲しかったものとは違った。
『じゃあ、俺らも結婚しようか?』なんて冗談でもいいから言ってよ。
ねぇ、瞬さん・・・・・・。
もう言ってくれないの?
「でしょ?」
精一杯の笑顔で答えると、私はブーケを紙袋に片付けた。
ねぇ、何も言ってくれないの?
私は、この状況が耐えられなくなり、「着替えてくるね」と言い、寝室の方へ向かおうとした。
「睦美・・・・・・」
不意に後ろから抱きしめられたので、ただただ驚くばかりだった。
「瞬さん・・・・・・?」
出すことのできる精一杯の声で、私は彼の名を呼んだ。
私の声が消えると、部屋の中は静まり返り、二人の呼吸だけが微かに聞こえていた。
背中やお腹に感じる彼の体は熱かった。
しばらくの沈黙の時間は、いつもなら気にならないが、今日はとても長く感じた。
それは、彼が何かを抱え込んでいることに気付いたからだ。
ねぇ、私に言えない事なの?
「睦美・・・・・・」
深呼吸をして、再び私の名前を呼んでくれた声は、何かを決意していたようだった。
「はい」
静かに答えると、彼は私の肩に手を乗せ、自分の方へと向くように促した。
20cmほど高い彼の顔を見上げると、真剣で、その瞳に捕らえられて逃げることなんてできないように感じた。
「睦美・・・俺の親に会ってくれる?」
落ち着いた口調で言ってくれた言葉に私は静かに「はい、もちろん」と頷いた。
ここ最近の心配が少しやわらいたように思えたが、彼の表情を見て、少しだけ違和感を感じていた。
話は進み、来週の土曜日、2人の仕事が休みの日に瞬さんの実家へ行くことになった。