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「どうぞ」


いつものように先に入って、私を迎え入れてくれた瞬さんの後に続いてリビングまでの廊下を歩く。


「はぁ、疲れた~」


全身の力を抜いてソファに座っていると、「何か飲む?」とキッチンから声を掛けてくれた。


「あ~大丈夫。ありがとう」


彼は、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出し、飲んでいた。


「なぁ、睦美、立って」


と、急に腕を引っ張られて立ち上がったので、バランスを崩して彼の胸に飛び込む形となった。


「えっ?」


私が彼の顔を見ようとすると、彼は腕の力を緩め私の腕から手を離し、2、3歩後ろへ下がった。


「似合ってる」



私の頭の上からつま先までゆっくりと見ると満足気にそう言った。


急にそんなことを言われたので、私の胸は一気に激しく動き始めた。


私が黙っていると、ゆっくり寄って来てくれて優しく抱きしめられた。


「かわいい」


言われ慣れていない事を言われると、何も言えなくなってしまい、私は彼の胸の中でひたすらまばたきをするだけだった。


彼のTシャツを握り締め、心の中で「大好き」と言っていた。


そんなことを言っているなんて気付かないよね。


でも、いつも思っているよ。



私がそんなことを思っていると、私を抱きしめる力が緩んだのがわかった。



「・・・・・・そばに男いた?」



その言葉にやましいことなんて何一つないのに、ビックと体が強張ったのがわかった。



「何かあった?」


ほら、疑われてるし。


私は、彼の胸に顔をうずめたまま、小さくつぶやいた。



「告白された」


自分でもどうしてこういうことを言ってしまったのかがわからないが、気付いた時には、口が動いていた。



「えっ・・・睦美?」


頭上から聞こえた声は、かなり動揺しているようだった。


そして、部屋の中は、シーンと静まり返っていた。


「あのね、ひとめぼれだって」


私はなぜかこの時、彼に挑戦状をたたきつけるかのように、彼の顔を見上げて言った。



「・・・・・・」



勝った?何も言わず目を見開いている瞬さんを見ていると、笑いが込み上げてきた。



「ふふふ・・・・心配?」


そう聞いた瞬間に、私は再び抱きしめられた。


「瞬さん、大丈夫やで。私には瞬さんしか見えてないから」


強く抱きしめられているので、私の声はこもってしまい、彼の胸に消えていく。



「・・・・・・」


ねえ、なんで何にも言ってくれへんの?何か言ってよ。


私は、抱きしめたまま何も言わない彼の顔を見たかったが、力が強く動くことができなかった。



・・・・・・心配させすぎた?どうしたのかな?