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「神尾先生、この2週間どうでしたか?」
病院近くの居酒屋で看護部みんなで神尾先生の送別会。
「勉強になりました。大学病院では、なかなか体験できないこともありましたし、ありがとうございました」
先生の挨拶が終わると、みんなが拍手をし、大いに盛り上がった。
「百井さんもありがとう」
隣りに座った私に、いつもの笑顔で彼は爽やかにそう言った。
「いいえ」
私は、彼にニッコリと笑い掛けた。
「先生、写真撮りましょ!」
神尾先生との撮影会が始まると、彼は私の耳元で「写メ撮ろう」と言うと、目の前に座っていた奈緒に自分のスマホを渡していた。
「キャ―――!」
みんなが悲鳴にも似た声を出したのもそのはず、彼は私の背後から抱きついているのだから。
「ちょっと、やめてください」
私が嫌がるのも無視して、「睦美、前向いて」と耳元で囁く。
「えっ?」
私が前を向いた瞬間、シャッターが切られた。
「え~先生、私も~」
甘い声で寄ってきた子たちを「ごめんね~、僕、お気に入りの子としかしたくないから」なんて堂々と言っていた。
「ももちゃんいいなぁ」
羨む声に囲まれながら、私が先生の方を見ると、スマホをいじっていた。
そして、私の方を向いて、ニコッと笑うと、スマホの画面をこちらに向けた。
―――送信先 佐々木瞬―――
「あ―――ちょっと待って!!」
絶対、さっきの写メを送るつもりやん!
私の声も空しく、彼は送信ボタンを押した。
「ああぁぁ・・・」
私が項垂れていると、「どうしたの?ももちゃん?」なんて声がしたが答えることはできなかった。
そしてすぐに私のスマホが鳴ったのに気付いた。
あぁ、絶対に瞬さんや・・・・・・。
【お仕置き決定】
この一言のみ送られてきていた。
隣りから覗きこむ神尾先生は、
「ははっ、嫉妬してるね」
と面白がっていた。一人嬉しそうにしている彼を睨むと、
「瞬のお仕置きが嫌だったら、僕が泊ってるホテルにおいで。
僕がお仕置きしてあげるから」
と耳元で妖艶に囁いた。
その言葉に、私の顔は真っ赤になっていただろう。
その様子を見て、また彼は笑っていた。
「恥ずかしがる睦美もいいね」
なんて、私をいじめる姿は瞬さんと一緒だった。
その後、二人で笑い合うと、今まで以上に距離が縮まったような気がした。
これで、ようやく、すっきりできたような気がした。