「だから、好きなんです。そりゃ、フランス料理を食べに連れて行ってくれるのも嬉しかったけど、私の手料理も食べさせてあげたかったな。

飲み会とか行くときに、ちょっと嫉妬してくれたり、仕事終わりに『会いたい』って言ってくれる方がいいんです」


「へ~亮太、睦美の手料理食べたことないんやぁ」


少し優越感に浸っている彼の声が隣りから聞こえたかと思うと、目の前の彼は、悔しそうな顔をしていた。


「瞬はあるのかよ」


「あるよ。あるに決まってるやん。めっちゃ、うまいのになぁ」


高笑いしそうなくらい嬉しそうな瞬さんに私は、

「瞬さん!ちょっと黙っておいて」

と、言った。


今は、私の先生の話にけりを付けないといけないのに、手料理がどうとか関係ないから。


「・・・・・・」


瞬さんを黙らせると、二人目を丸くさせていた。


「本当に黙って連絡を取れなくしたのは、ごめんなさい」


私は、頭を下げると、先生はなぜか笑っていた。


「えっ?」


なんで笑ってんの?


「睦美が怒ってるの初めて見たし。僕の前だと、いつも優しくて笑顔だったからね」


「・・・・・・」


それは・・・怒るなんてできるわけないやん。


「こいつ、こんなもんじゃないで。俺と初めての会話の時、キレてたもんな」


「それは、瞬さんが悪いんやん!」


「でも、あんな言い方はないぞ?」


「ふんっ、知らん!」


私達が言い合っていると、その姿を見て神尾先生は笑っていた。


「本当に仲がいいんだな。僕には敵わないや」


そう言うと、ワインを一気に飲み干した。


「お前、車じゃないんか?」


「あぁ、瞬の家に泊るからいいし」


「はぁ?今日はあかんぞ。睦美が来るから」


「お前、僕の睦美に手を出すな―――!」


そう言いながら、先生はテーブルに突っ伏してしまった。


「あぁ、こいつ、酒弱いのに・・・」


「・・・・・・」


私達の別れ話は、これで終わりを告げた。


結局、神尾先生は納得してくれたのだろうか・・・・・・。


この後、私達は、瞬さんの車に乗り、帰ることにした。


「あぁ・・・・・・今日は睦美と一緒にいたかったのにな・・・」



車内でポツリと言うと、後部座席から「ダメだぞ―――!!」と酔っ払いの声がした。