最低やな・・・自分でも思う。


「そっか・・・・・・」


呆れられたよね。


「ごめんなさい」


私は静かに謝ると俯いた。


しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。


「それでも、僕は睦美が好きだと言ったら?」


耳に入った瞬間、何を言われたのか、理解ができないくらい動揺していた。


「亮太、しつこいぞ」


私の困った表情を見て、瞬さんは助け舟を出してくれたが、それを遮るように彼は口を開いた。


「僕は、睦美に聞いてるんだよ」


この言葉を発したことよりも、彼の真剣な、いや厳しい表情に驚いた。


こんな表情、見たことないし。


彼と言えば、『ミスタースマイル』と言われるくらい、常に笑顔でいるような人なのに、今の表情は、『ミスタースマイル』の欠片もない。


その表情に飲み込まれて、声が出なかった。



しかし、頭では、「話さないと」と思うばかりで、言葉にできなかった。


どれくらいの沈黙の時間が流れただろうか。



ようやく、脳が働き始めて、言葉を発することができた。



「私は・・・・・・あなたのことを、名前で呼ぶことができなかった

・・・きっとこれからも呼ぶことができないと思います。

そんなことって思うかもしれないですけど、やっぱりどこかで遠慮してしまうと思うから、ごめんなさい」



私の体はどんどん強張り、眉間のしわが深くなり、胸は苦しくなっていく中、自分の気持ちを声に出した。



「はぁ・・・ねえ、睦美・・・瞬のどこがいいわけ?」


溜息をつきながら、半分キレるように、目の前の料理を頬張りながら言う姿に再び驚いた。



「亮太の素が出たな」


「えっ・・・素?」


「せっかくさ、睦美にふられないように、頑張っていい男になろうと思って、

睦美が友達と飲みに行くときも『男はいるのか?』とか聞きたかったけど、

そんなこと聞いたら嫌われると思って、聞けなかったし、

食事だっていい店を選んだし。

病院でも、睦美の部署の人にきつく言ったりしないようにしたし。

アメリカに行くのも無理に連れて行こうとしたら、嫌がると思って言えなかったし、

連絡が取れなくなってからも、意地でも連絡を取りたくて、休みの日に日本に帰ろうかって何度も思った。

ウザいと思われたくなくて・・・できなかった」


最後には、俯いてしまった彼は、本当に神尾亮太なのかと思うくらい自信を喪失しているようだった。


「睦美、びっくりした?」


瞬さんの言葉に正直に頷くことしかできなかった。


「なぁ、睦美、瞬のどこがいいの?こいつ口は悪いし、睦美も怒られただろ?彼女にあんな言い方する男だぜ?」


私に訴えかけるように言う彼は、必死の形相だった。