「それで、何の用や?」
緩んだ顔を一瞬にして険しいものに変えて、神尾先生に向けていた。
「何怒ってるの?瞬」
えっ?
今、瞬って言ったよね?どういうこと?
「そんなに怒らないでよ」
怒っている瞬さんに対して、神尾先生は余裕の笑み。
瞬さんは言葉を発さなかった。
「・・・・・・」
「じゃぁ、単刀直入に言うよ。
瞬、睦美と別れてくれ。
一気に血の気が引いていくのがわかった。
こんなストレートに言うなんて・・・・・・。
「亮太、お前なぁ・・・・・・」
えっ、亮太?この二人知り合いなの?
私の戸惑いとは関係なく、二人の睨み合いは続いていた。
「あの・・・・・・すみません・・・お二人は知り合いなんですか?」
私の言葉に二人は、同時に私の方を向いて、口を開いた。
「従兄弟なんだよ」
「そう、従兄弟なんだ・・・・いや、え―――!!」
私は驚きのあまり、声を上げてしまった。
「ごめん睦美、言いそびれてて・・・・・ほんますまん」
・・・・・・瞬さんは、謝ってくれていたが、そんなことが頭に入らないくらい私は驚いていた。
「僕の父と瞬の母親が兄妹なんだ。」
「・・・・・・そうなんですか」
・・・・・・もう言葉が出て来なかった。
「じゃぁ、本題に入ろう」
私の状況なんてお構いなしに、食事を始め、話をすすめようとしていた。
「俺は、別れる気なんてないから」
瞬さんは、食事に手をつけることなく言い放った。
「ふ~ん、あいにく、僕も別れてたつもりはないし」
二人は、一歩も譲ることなく、睨み合いを続け、完全に私は取り残されていた。
「睦美は、瞬に騙されたんだよね。不本意だけど、僕たち従兄弟だけあって、似てるからね」
確かに、改めて見ると目元とか似てるし・・・・・・。
いやいやそんなこと今考えている場合じゃないし!
「騙されたってなんやねん!」
私の言葉を遮るように、彼は神尾先生に噛みついた。
「騙されたに決まってるさ。瞬は、きつい言葉を遣うから、言いだせなかったんだよね?睦美?」
私に問いかけてくる彼の表情は、いつもの笑顔で、いつもながらに感心してしまう。
「睦美は、俺に何でも言ってくれるけど?亮太にこそ話せなかったんじゃないか?」
「・・・・・・」
私は、瞬さんの言葉に何も言うことができずに俯いてしまった。
「睦美?」
神尾先生の声に私の胸は、チクチクと痛みだした。
そして、ゆっくりと口を開き、自分の気持ちを伝えた。
「ごめんなさい。私・・・ずっと先生に自分の気持ちを言うことができへんかった・・・」
しっかりと彼の目を見て話すと、彼から笑顔が消えていた。
「私は、毎日会いたかったけど、言えなかった。
自分の気持ちを隠しているうちに、先生への想いも薄れていっていたけど・・・・・・
実家から離れた土地で一人でいたくなかったから・・・先生に依存してたのかもしれない。
それで、アメリカに行くって聞いた時も、もしかしたら連れて行ってくれるかもしれないって甘い考えも浮かんだんやけど、やっぱり、一人になって・・・。
『寂しい』『行かないで』なんてことも言えずに、『頑張ってね』としか言えなかった」
神尾先生の目を見ることができなかったので、目線をテーブルに向けて、ゆっくりと話した。
「睦美、そんなこと思ってたの?言ってくれたら良かったのに」
その言葉に私は顔を上げると、彼は眉を下げて寂しそうな表情をしていた。こんな表情の彼を初めて見た。
「言えなかった。わがまま言って、嫌われたくなかったから・・・」
結局、私は、医師である先生の隣のポジションが欲しかったのかもしれない・・・・・・。