私は瞬さんの隣に座り、体は彼の方に向け、話し始めた。


「瞬さん・・・・・・私、神尾先生と付き合っていた」


瞬さんをこれ以上苦しめるわけにはいかない。


ちゃんと全て話して、彼を安心させてあげないと。


だって、あなたは、私の大切な人だから。



私の告白に彼は、「そっか」と小さく呟くと、私から目を逸らした。


部屋の中は静まり返り、重たい空気だけが流れていた。



「それで、何か言われたん?」



静かな部屋に彼の声だけが響く。



「プロポーズされました・・・」


「え―――?!」



目を丸くして驚きながら大声をあげる彼を見て、私は申し訳なくなった。



「・・・・・・」



「睦美、もしかして、今もあいつと付き合ってるのか?」


あぁ、二股かけてると思われたんやぁ・・・何て言おう・・・。


何から話そう・・・。



「瞬さん、私の話、聞いてくれる?」



落ち着いた口調で私が言うと、彼は大きく1回頷いた。


私は全てを話した。



前の病院で勤めていた頃、彼に告白されて付き合っていたこと。


アメリカへ一緒に行きたかったこと。


でも連れって行ってもらえなかったこと。



その時気付いたのは、何一つ彼に自分の気持ちを伝えることができていなかったこと。



結局、彼のことが好きなのではなく、一緒にいてくれる人が欲しかったこと。



そう、初めての一人暮らしで、心細く、一人になりたくなかっただけ。



彼がアメリカへ行った後、一切連絡を取ることなく、病院も辞めたこと。


そして、今回彼は、私を連れ戻しに私の前に現れたこと。


瞬さんと別れるように言われたこと。


「で、どうするの?別れるの?俺と・・・・・・」


隣にいる彼は、冷たく言い放つと黙ってしまった。


「なんでそんなこと・・・・・・」


「だってそうやろ?ちゃんと別れてないのに、俺と付き合って・・・別れるつもりなんてないんちゃうんか?」


そう言われても仕方ない。


私は、逃げてばかりで・・・・・・。


自分の気持ちを言えないんじゃなくて、言ってないんだ・・・・・・。



「ごめんなさい」


「なにそれ・・・・・・俺に謝ってんの?俺と別れたいの?」


冷たい視線を向ける彼を見つめて、私は呟くように言った。


「別れることなんてできへんよ・・・」


「やっぱり・・・あいつと」


主語がなかったので、彼は勘違いして、私が神尾先生と別れることができないって言っていると思ったらしい。


「はぁ・・・もういい」


溜息をつきながら言う彼の言葉は冷たく、私から顔を背けた。


いや、違うの。そうじゃないの・・・どうしたら・・・。


私が黙ってると、彼は痺れを切らしたように「一人にさせてくれ」と私の顔も見ずに言った。


きちんと聞かずに決めつけるなんて酷い・・・彼の冷たい態度に私の怒りは、一気に沸点に達した。


「あんたと、別れることなんてできへんわ!」


そう、絶叫すると、彼は驚いたようで振り返り、私をじっと見た。


私は、彼の胸に飛び込み、「瞬さんと別れることなんてできません」と言った。



そうすると、彼は頭を撫でてくれ、「俺も別れられへん」と言い抱きしめてくれた。



どれくらいそうしていただろう・・・。


知らないうちに流していた涙は、乾いていた。



「じゃぁ、あいつにちゃんと自分の気持ちを言うんやで」


「はい」



彼の胸の中で、大きく頷き言った。