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診察時間が終わり、会議室には職員が集まってきた。


80人くらいが入ることができる会議室だが、全職員である約120人を収容しなくてはいけない。


パイプイスを隙間なく並べてあるので、室温は上がっていて、冷房を入れているからギリギリ過ごすことができている状態だ。


立っていた職員もようやく座り、時計も19時を差したので、私はマイクを持ち、立ち上がった。



「定刻となりましたので、院内勉強会を始めさせて頂きます。

本日は、今週の月曜日から来ていただいている慶命大学付属病院、脳神経外科の神尾亮太先生に『脳卒中の救急対応について』を講演していただきます。

最後に質疑応答の時間を取っています。

まずは、先生の経歴から、ご紹介させていただきます――――――」




私は、いつものように司会を始めた。


皆の視線がこちらを向いているのも痛いが、それ以上に私の左側の机に座っている彼から視線が痛かった。


公演中は、何のトラブルもなく無事に終わることができた。


質疑応答も時間が足りないくらい多く質問が出たので、この勉強会は成功と言えるのではないだろうか。



勉強会が終わってから、院長、副院長は神尾先生を絶賛していた。



「ももちゃん、お疲れ様。すごくわかりやすくできていたわよ」



師長さんが、私の肩を叩いて笑顔で言ってくれたので、肩の荷がおりてすっきりした気がした。


100人以上いた職員もぞろぞろと帰ると、会議室には私と神尾先生と束ちゃんだけになった。


「束ちゃん、ありがとう。もう大丈夫やで」


ずっと、手伝ってくれている束ちゃんに悪いと思って言ったが、

「もう、ここまで付き合ったら、最後までいるよ」

と本当に最後まで付き合ってくれた。


「百井さん、遅いし送ろうか?」


束ちゃんの手前、神尾先生はそう言ったが、その言葉は束ちゃんによって遮られた。


「もも、彼氏、待ってんじゃねぇの?」


わざとしか思えない言い方で、束ちゃんが言った言葉に「うん」と頷くことしかできなかった。


もしかして束ちゃんはずっと神尾先生と私が、二人きりにならないようにしてくれたの?


この時、束ちゃんの真剣な表情で、彼は、私と神尾先生の間に、何かがあったことを感じているのではないかと思った。


とりあえず神尾先生から逃げることができ、私は足早に病院をあとにした。


病院裏に止められている彼の車。助手席に座ると、とても落ち着いた。



「お疲れ」


そう優しく言ってくれる彼の表情は、暗くてよく見えなかったけど、きっと控えめな笑顔で見つめてくれるはず。


「腹減ってるやろ?何食いに行く?」


運転しながら少しだけ私の方に顔を向けていた。


「あっ、勉強会で出たお弁当が余ってたから、瞬さんの分も貰ってきたの」


「じゃぁ、俺んちでいい?」


「うん」


そのまま彼の家へと向かった。