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「もも、遅かったな」


勉強会の会場である会議室へ行くと、束ちゃんがひとり座ってスマホをいじっていた。


「束ちゃん、早いやん」


「あぁ、なんとなく」


束ちゃんは、スマホを鞄に入れると「何からする?」と立ち上がった。


「えっとね、パソコンは神尾先生が持ってきてくださるから、用意できないのよ・・・椅子でも並べておく?

あともうすぐメーカーさんからお弁当が届くから、取りに行かないとね。後は・・・」


次から次へと話をする私に、困った顔をしている束ちゃんを見上げた。


「もも、俺、そんなにいっぱいできへんし」


「ふふっ、じゃぁ、椅子から並べようか」


私と束ちゃんを並べ終わり、あとは神尾先生のパソコンを繋ぐだけ。


「先生は?当直やったから帰ったんかな?」


「どうなんやろう?そのまま残ってるんじゃない?」


そんな話をしていたら、会議室のドアが開いた。


「あっ、遅くなってごめんね」


パソコン片手に入って来た神尾先生は、いつもの笑顔で私の方を見ていた。


「神尾先生、お疲れ様です」


「あっ、君は・・・」


神尾先生の顔から一瞬だけ笑顔が消えたが、すぐに口角は上げられた。

「束村です」


束ちゃんは、落ち着いた口調で答えていた。


その後、先生のパソコンを接続し、いつでも勉強会が始めることができる状態にしておいた。