「睦美、愛されてるね」


たった一人だけ私達が付き合っているのをしている桐谷千鶴は私にそっと耳打ちする。



「何、言ってるのよ」


私は照れを隠すように、ご飯を口にかき入れた。

実際、彼はかなりもてるにもかかわらず、付き合っているは私一人で(当たり前のことかもしれないが)、いつも私を安心させてくれる。


彼は、いつも言葉をくれた。



「好きだよ」


「かわいいね」


「愛してる」



その言葉によって、私は彼の隣にいることを自覚できる。そして、隣にいていいのだと確認できる。




私の誕生日やイベントには、いつもサプライズのプレゼントを用意してくれる。


そんなことで私は、彼に愛されているのだと思っていた。



しかし、私は、彼に何一つ思いを伝えることができなかった。



「今日は、研修医と飲みに行くから会えなくなってしまったんだ」



人付合いのいい彼は、急に飲み会に参加することが頻繁にあり、私との約束があってもそちらを優先されてしまう。



まぁ、食事をしに行くだけだから、いつでも行けるんだけど。



「そっか、しかたないよ。飲みすぎないでね」


こんなことしか言えなかった。



「私との約束の方が先だったじゃない!」


なんて思っても決して彼には言えなかった。



私が何も言わないから都合のいい女だと思われているのではないかと思うこともよくあった。