あの時の私は、彼には何一つ言うことができなかった。
百井睦美 23歳。
大学の看護学部を卒業して、私は全国的に有名な慶命大学付属病院に就職することができた。
私が配属されたのは、脳神経外科。
仕事に馴れることができず、落ち込んでいた私に声を掛けてくれたのが、神尾亮太だった。
初めは、廊下ですれ違う時に少し話をするだけだったが、何度か食事に連れて行ってもらっていた。
彼は、いつも笑顔を向けて、優しく話を聞いてくれた。
彼のことが好きになるのは、そう時間はかからなかった。
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