「ごめんなさい」



本当は、その場で切れたいくらいだったが、やはりできない。


いつもそうだ。彼といると、自分らしさが失われる。


言いたいことも言うことができない。



彼は、「好きだよ」「愛してるよ」「かわいいよ」なんて言葉をたくさんくれる。


でも、私には言わせてくれない。


私が言う前に彼に言われてしまうんだ。


だから、私の気持ちは、いつだって伝わらない。



「謝らなくていいんだよ。僕はこんなこと気にしないよ。

ただ、睦美が帰って来てくれたらいい」


あぁ、なんか勘違いしてますよね?どうしたらいいのよ。


はっきり言いたいのに、言葉が出て来ない。


私はずっと黙ったまま俯いていた。



「とりあえずこれは僕が持っておくね。あいつと別れたら、渡すね」



指輪の入った箱を内ポケットに入れると、「そろそろ行こうか」と店を出た。