「着いたよ」
そう落ち着いた声が聞こえて、お店を見ると、上品な建物は、外見からも高級店であることが伺い知れた。
高級フランス料理店。彼は、私と外食をする時は、たいていこのような店を選ぶ。
日本人でレディーファーストが嫌味でなくできる人なんて、なかなかいないが、彼はそれが自然にできる。
そして、店内に入っても、どの仕草、どの言葉もさりげなくしていることに尊敬してしまう。
「今日は、渡したいものがあったんだ」
彼が口角を上げて言った言葉に食事をする手が止まっていた。
「渡したいもの?」
いったい何?
私何か忘れてたのかな?
私の質問には答えてくれず、彼は上着の内ポケットから何かを取り出すと、自分の手の平に置いた。
片手に収まってしまうくらいの大きさの箱。
グレーの高そうな生地の箱は見なくても何が入っているのかが予想できる。
―――指輪―――
私の中ですぐに浮かんだものは、そう指輪だった。
私が黙っていると、彼はゆっくりとその箱を私の方に向けて開けた。
目の前には、きらきらと光り輝く見たことのない大きさのダイヤモンド。
「きれい」
ついついそう言ってしまうほど、目の前のダイヤモンドは眩いくらいに輝いていて、じっと見ていると、目がクラクラしてきそうだった。