******
「お疲れ様でした」
夜診も終わり、私は出ようとしたら、つい数時間前に聞いた声に呼びとめられた。
「仕事、お疲れ様」
そこには、にこりと笑う北村君の姿があった。
「どうしたの?診察はとっくに終わってるはずでしょ?」
そう彼は、17時過ぎには診察を終えていたはず。
しかし、今は19時を過ぎている。
「百井さんを待っていました」
「えっ?」
いつになく真剣な表情と呼び方に動揺してしまった。
「食事でもどうですか?」
今までの口調とは違う少し大人びた誘い方に私はドキドキしていた。
「いいよ」
なぜか、断ることができなかった。
彼に連れて来られたのは、病院から歩いて5分程の創作料理のお店だった。
店内は、お洒落な雰囲気で周りはカップルばかりだった。
「何か飲みます?」
「あ・・・そうやなぁ・・・って、あなたは病み上がりだから飲んだらあかんよ」
「はぁい」
少ししょんぼりとした顔をした彼は、すぐに「じゃ、何食べます?」と気分を切り替えていた。