「あら、ももちゃん、新しい先生?」


回診をしていると、患者さんから毎回のように聞かれる。



「僕は、東京の慶命大学病院の神尾と申します。2週間だけこちらにお世話になっているんです」



そしていつもの笑顔。笑顔には寸分の狂いはない。



「あら~そうなの?ももちゃん、イケメンの先生でいいわね。
ももちゃん、お似合いやわ」



そんなことを言う患者さんまでいる。正直、余計なことは言わないで欲しい。



「睦美、やっぱり、僕たち知らない人から見てもお似合いなんだね」



病室を出るとすぐに私にだけ聞こえるように囁いた。



ほら、調子に乗せてしまったやん。



「佐々木先生もかっこいいけど、神尾先生もいいわね」



なんて、佐々木先生の担当の患者さんでさえ、横から話に入ってくるくらい彼は注目されていた。


しかも、余計な名前まで出すから、聞いて欲しくないことまで聞かれることになる。


「なぁ、佐々木先生って、常勤じゃないよな?」


どうして、そこが気になる??



「はい。医大から非常勤で水曜日に来てくださっている先生です」



仕事中だから、面倒でもきちんと説明をしなくてはいけないと思い、説明した。



「水曜日って明日だね。見てみたいな。何科のドクター?」



「消化器外科です」



なぜか嬉しそうにしている彼の顔から目を逸らして、私は答えのみを口にした。


できれば、会って欲しくない。



お互いに私の話しなんてすることはないと思うけど、会って欲しくない。