「千鶴?」
「電話が来ると思ったよ」
彼女がそう言ったことで、何らかのことを知っていることがわかった。
彼女は、前の病院の同期で、一番仲の良かった桐谷千鶴。
そして、神尾亮太と私が付き合っていたことを知っている唯一の人物。
今の病院に勤めていることを知っているのは、彼女だけなので、彼に言ったのは彼女だと簡単に推測できる。
「じゃぁ、聞かれることはわかってるよね?どうして今の病院を教えたの?」
私は、電話の相手を責めるように言った。
言って欲しくなかった。
私はもう彼とは会わないと決めたのだから。
「だって、神尾先生が真剣な顔をして、絶対に連れて帰ってくるからって言うから・・・」
「えっ、連れて帰るってどういうこと?」
「神尾先生、1週間前に帰って来て、睦美が辞めたのを知って、ショックを受けてたんだよ。
それに睦美が辞めた理由を言ったら、すごく後悔しているようだったよ」
向こう側の声は、今にも泣き出してしまいそうに震えていた。
「・・・・・・千鶴・・・話したんや」
あんなこと話して欲しくなかった。
そして、それを聞いて私の前に現れたの?どうしてそこまでするのかがわからない。