「それにしてもさ、瞬はなんであんなに嫌われているんやろう」
お茶を入れてきた上野山さんは、私の隣に座ると不思議そうに言った。
「厳しいからじゃないですか?」
「そっかぁ、あいつ本当は面白い奴なんやけどなぁ」
と、上野山さんはごはんを口に入れながら、にわかに信じがたいことをさらっと言っていた。
そっか、この人佐々木先生と友達なんやった。
「上野山さん、本当に佐々木先生と仲がいいんですね」
『仲がいいんですか?』と聞きたかったが、あまりにも失礼だと思って言いかえた。
「そうやね、高校の時からの付き合いやから、かれこれ17年かな」
「17年・・・」
いったいこの人とあの人のどこが気が合うんだか。
「ももちゃんも瞬のこと嫌い?」
えっ・・・。
嫌い?
いや別に・・・・。
嫌いとは思わないかな。厳しいとは思うけど。
「別に嫌いではないですけど・・・」
答えにくい質問を濁しながら答えた。
「そっか、やっぱりももちゃんは優しいね」
意味深な言葉のように聞こえたが、私は聞こえない振りをしておいた。
そう、私は彼の気持ちに気付いている。
何回も飲みに誘われたりしているが、必ず束ちゃんや奈緒や仲の良い子を連れていく。
外見をどうとかはあまり言いたくはないが、彼は、162cmの私より背が低く、小太りである。
それ以上に性格が合いそうにないから、どう考えても「いい人」止まりなのだ。
告白なんてされて断ったら、今後仕事がしにくいから嫌なんだ。
そして、佐々木先生が休みの水曜日は何事もなく過ぎて行った。
私は、夕方外来の手伝いをしに1階に降りると、久々のあの声に呼びとめられた。
「ももちゃん!」
私が振り返ると、パジャマ姿ではない北村君が立っていた。
彼は、ベージュのコーデュロイのパンツに紺色のコートを羽織っていた。
パジャマ姿しか見たことがなかったから、新鮮だった。
入院中は何とも思わなかったけど、私服姿を見ると、みんなが『北村君、イケメンよね!』と騒いでいたのも頷ける。
「今日は診察?」
私服姿に触発されたのか、少し砕けた言い方になってしまった。
「そうなんです。ももちゃんは?今日は病棟にいないの?」
「そうそう、外来の手伝いに来たの。元気そうで良かった」
「ありがとう。ももちゃん」
「お大事に」
そう言って、私は外来の処置室へ向かった。