食事の配膳を終え、廊下を歩いていると同じく看護師で高校の同級生でもある束本康介が出勤してくるのが見えたので声を掛けた。


「束ちゃん、おはよう・・・・・・」


「うわっ、お前酷い顔してるし!」


「酷い顔って、酷いなぁ。しかたないやん、昨日、めっちゃ忙しかったんやもん」


 私は再びため息をひとつついて、束ちゃんとナースステーションに入った。


 中に入ると日勤の看護師が出勤していた。

気づいたのは、今日はなぜか、みんな気合が入っていること。


仕事に対する気合でないのは、見ればわかる。厚めに塗られたファンデーション、明らかにいつもとは違うアイメイクに違和感を感じた。


「ももちゃん、メイク直ししなくていいの?」


 ニッコリ笑いながら私に聞くのは、同じく夜勤だった奈緒で、彼女はいつの間にかメイク直しをして青白かった顔色は、人工的に血色が良くなっていた。


「はぁ?いつもメイク直しなんてしてないやん。」


 私はつぶやくように言ったので、誰も私の言葉に気付いていないはず。

もうあと少しで仕事が終わるし、終わったら帰るだけだから、わざわざメイク直しなんてしないのは、みんなも同じなのに、今日は一体どうしたんだろう。


「ももちゃんはメイク直ししたらあかんで!
ももちゃんがメイク直ししたら一人勝ちやもん」


そう言うのは、今日は日勤である先輩看護師の木村さん。
そんな木村さんも普段以上に厚塗りしたようで、顔と首の色が違っていた。

というか、『一人勝ち』って何?


「みんな気合入ってるね~」


 何か知っているような口ぶりの束ちゃんに何があるのか聞くと、

「医大からイケメンドクターが来るらしいよ」

と言い「ももは、そういうのに疎いよね」と笑いながら付け加えた。


 この病院は、常勤の医師4人に加えて、同じ市内の医大から数人の非常勤医師が派遣されている。


先週で診察が終わった消化器外科の田中先生の後任者が、噂のイケメンドクターらしい。


「だって興味ないし」


 そう束ちゃんに言うと、私は山積みされているカルテの前に座って、仕事を再開させた。


 何がイケメンドクターよ。

仕事ができないと意味ないし。

前の病院にいた時も、代々医師の家系で、自分も医師になった人がいたけど、顔が良くても仕事ができない人が多かったし。


今回来る“イケメンドクター”もこの辺りでは有名な病院の院長の息子らしいので、どうせ見掛け倒しだろう・・・その時は思っていた。