「ももちゃん?」
「もも!」
隣の束ちゃんが、肘で私をつつくと、私は我に返った。
「はいっ!」
慌てて返事をしながら顔を上げると、みんなが私の方を向いていた。
「ももちゃん、大丈夫?」
「はい」
「ももちゃんは、神尾先生がいる慶命大学病院に勤めていたから知ってる?」
知ってるもなにも・・・・・・。
私が返事に戸惑いながらも顔を上げると、彼と目が合い、ニッコリと笑われた。
「あっ、百井さん、久しぶりだね」
少し低くて、甘い声が私の耳に入って来た。
「ももちゃん、知り合いなんや~!」
そんな声が聞こえる中、私は「はい」と頷いた。
「じゃぁ、ももちゃんが神尾先生に病院内を案内してもらおうかな」
・・・・・・な、何て言いました?
「はい」
頭の中で考えていることは隠して、私は返事をした。
「じゃぁ、今日1日よろしくお願いします」
いつものように朝礼が終わったが、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「じゃぁ、ももちゃん、よろしくね」
優しく笑いかけてくれる師長さんの顔でさえ、今日の私には憎らしく見えた。
「百井さん、久しぶり」
わざとらしく、もう1度言う彼は以前と全く変わらない笑顔で私に笑い掛ける。
少し伸びているが、サラサラの髪、奥二重の目、通った鼻、いつも口角があがっている唇。その顔を見るには、20cmほど上を見なくてはいけない。
「・・・・・・お久しぶりです」
一瞬だけ顔を見ると、すぐ俯き小さく呟いた。
いつもなら事務次長である上野山さんが案内するのだが、どうしても抜けることができない仕事があり、私となったようだ。