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「最近さ、佐々木先生優しいんだよな」
食堂で私の隣に座って、束ちゃんは嬉しそうに私に言った。
周りには誰もいない。彼は、周りに人がいる時は、瞬さんの話はしない。
彼なりに気を遣っているのだろう。
「よかったやん」
「でもさ、ももの友達やから優しくされてるんやったら微妙やな・・・」
彼なりの考え。
私の友達だから、遠慮してるのではないか?って思っているのだろう。
「あの人は、そんな人じゃないよ。仕事で妥協はしないからね。なんせ、俺様ドクターだからね」
私は席を立つと、「先に行くね」と束ちゃんを残して食堂を後にした。
「はぁ、眩しい・・・」
6月に入ったばかりだというのに、今日は夏日になると天気予報で言っていた。
食堂から出てすぐの窓から差し込む陽が眩しかった。
「百井さん、教えたもらいたいところがあるんですけど・・・。いいですか?」
「あっ、今ちょっと待ってね。仕事が終わってからでいい?」
「はい!」
こんなことも多くて、仕事が終わってすぐに帰ることができる日なんて滅多にない。
たまに帰ることができると思ったら、「ももちゃん、橋本くん、束村くん食事でもそう?」、なんて院長から誘われたりする。
瞬さんの家に行くのは、約束ではないので、他の誘いを優先する。
そうするように彼に言われた。
「付き合いも大事やからな。まぁ、俺も得意じゃないけど」
苦笑いをしながら、いつもそう言う。
こんな多忙な毎日を過ごしながらも、瞬さんとは一応上手くいっていて、そのお陰で今を乗り越えて来ることができるんだと思う。
しかし、こんな順調な毎日を揺るがす出来事が起こるとは思いもしなかった。