「あの子っていつもあんな感じなん?」

北村さん達の病室を出て、次の病室に移る時、先生は聞いてきた。


「北村君ですか?」


「あぁ・・・軽いっつうか・・・」


「そうですね、若い子って何を考えているかわからないですよね」


「あんたもそんな歳変わらないだろ?」

いや、彼は確か21歳だから私の方が5歳上。

これは『たいして』には当てはまらないだろう。


「きついことききますね」


「いくつ?」

全く躊躇することなく、先生は聞いてきた。


「26です」


「・・・・・・へぇ」


「何ですか、その変な間は!」


私の言葉を無視して「次は?」とすでに仕事モードになっていた。

この人の切り替えスイッチの場所を教えて欲しい。



それからも順調に回診は進み怒られることなく終わった。


 ナースステーションに戻った時、思い出したように佐々木先生が聞いてきた。


「そういえば、あの人どうなった?」


「あっ、高井さんですか?」


「そうそう、食いすぎの人」


「高井さんです!!あれから奥様にも指導させていただきました。腹痛もないようです」

『食いすぎの人』なんて呼んで欲しくなかったので指摘すると、一瞬ムッとした表情になったので怯みそうになったが、ここは引いてはいけないと、平常心で答えた。



「そう。じゃ、俺下に行っていいかな」


『そう』と言っただけだったが、『それはよかった』という言葉が含まれているように思えた。


「はい。ありがとうございました」


そう言って、ナースステーションを後にする佐々木先生を見送った。


「はぁ・・・・・・終わった」


私は検査の指示や点滴の交換の指示があったカルテを目の前にして椅子に座ると、真向かいに座っていた木村さんが、若干私を睨んでいるように見えた。


「やっぱり、若いと扱いが違うんよね。あの先生」


はあ?何が言いたいねん。


あの先生は、若いとかで扱いは変わらない。


実際、愛ちゃんを泣かすぐらいなのだから。


「そんなことないですよ~」

と軽く流しておいたが、私の心は怒りでいっぱいだった。


でも、みんなが言うみたいに「厳しい」とか「怒られる」ということはなかった。


まあ、何を考えているかは分からないとは思ったけど・・・。


私は、木村さんとの会話を終わらせようとしていた時、奈緒があることを言ったことで、ナースステーションないが騒然とした。


「俺様ドクターが笑ってるのを初めて見たし」


笑ってた?


「えっ、あの先生が?」


高倉主任まで食いつくか!!


「ももちゃんと話していた時、確かに少し笑っているように見えたんですけど・・・」


首を傾げながら言う奈緒に周りは「気のせい!」と話を終わらされていた。


その後も奈緒は納得がいかないようで首を傾げながらブツブツと言っていた。