「佐々木先生、お先に失礼します」
「お疲れ」
診察室で佐々木先生と池内さんとの会話が聞こえ、彼女の足音が遠くなると、ロビーから少し離れた空間には私たち2人になる。
私は、片付けが終わり、ゆっくりと佐々木先生がいる1診を覗いた。
彼は、真剣な表情でパソコンに向かっている。
涼しげな眼もと、鼻筋が通っていて、薄い唇はしっかり閉じられている。
あごのラインがシャープで男らしい。
少し伸びた髪をかき上げると、私の視線に気付いたのか、こちらを向いた。
「何してんの?覗き?」
この台詞、なつかしいなぁ。
あの時は、この涼しげな目元が冷めて見えて怖かったんよなぁ。
「はい」
「ははっ、覗きを肯定する奴、初めて見た」そう言いながら、歯を見せて笑うのを見て、少し安心した。
「ちょっと、待って」
なんやろう・・・・・・でも案外、普通に話せてよかった。
私が安心していると「なんですか?」と、私の問いかけにも答えずに、彼は、鞄の中をあさり出して、ある物を出した。
―――静岡名物のパイ―――
あっ、これって・・・・・・。
「これ、私にですか?」
あの時と同じように答えると、彼も笑顔になっていた。
きっと、望み通りの言葉を出せたのだろう。
「そう、ただの下心やから」
彼もまた、あの時と同じように答えると、私たちは顔を見合わせて笑い合った。