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「今日の外来は、百井さんなんですね」
外来の遅番に降りて行くと、事務所の池内さんがカルテを運びながら声を掛けてきた。
池内さんは、私の1年後輩の事務所の女の子。
入職したての頃は、「あの子、絶対ビジュアルで入ったよね」と言われるくらい、整った顔をしている。
しかし、しばらくすると、ビジュアルだけではないことがわかった。
とても優秀なのだ。
「そうなの・・・木村さんが体調不良で、ピンチヒッターなの」
私は、処置の用意をしながら返答した。
「ちょっと、いいですか?」
池内さんは声を潜めて、私に近付いてきた。
近くで見ると、みんなが噂するだけあってやっぱり綺麗な顔立ちしているのがわかった。
まつ毛も長くて、目もパッチリと大きいし、女の私でも見とれてしまう。
しかも髪も少し明るめのブラウンだが傷んでなく綺麗な内巻きボブで、可愛い雰囲気を出している。
一方私ときたら、メイクもそこそこ、肩甲骨辺りまで伸びた髪に軽くパーマをあてているが、仕事の時は一つに結わえてある。
つくづく女子力が足りないなと思う。
「どうしたの?」
「あの・・・私、佐々木先生が・・・・・・」
えっ、好きとか??
ちょっと、待って・・・・・・私にそんなこと言わんといてよ。
「怖いんです」
・・・・・・はぁ?
「それで?」
なんだ、数少ない俺様ドクターファンかと思ったよ。
どうやら無駄な力を使ってしまったみたいだ。
「何かあったら助けてくださいね」
何かって何?取って食ったりはしないよ?
「・・・・・・」
「お願いします」
返事をしない私に、池内さんは頭を下げると、診察室の方へ戻って行った。
助けるって何を?私も仕事あるんやからさ・・・・・・。
意味わからんこと言うよなぁ・・・。
「はぁ・・・・・・」
私は、大きな溜息をつくと、患者さんを呼び入れた。