「百井さん、すみません」

「ごめんね、ありがとう。先生、回診をお願いします」


先生は返事もせずに病室に入った。


そして、患者さんに対する態度は、当然のことだが、笑顔で優しい。


「次は、205号室の北岡幸子さんです」

北岡さんは、胆のう炎で入院している53歳の女性。

とても明るく、おしゃべり好きで彼女がいると病室も明るくなる。


「北岡さん、こんにちは」

「あら先生、先週はどうしたの?楽しみに待っていたのに」


先生の顔を見るなり、起き上がり、髪形を整えはじめる北岡さん。


患者さんの中には、佐々木先生ファンが多い。


北岡さんもそのうちの1人で、先週佐々木先生の代わりの先生が来た時は、明らかに元気がなかった。

「そうですか、先週は学会があったので」

きちんと理由を話すと、「それはしかたないわね」なんて納得していた。

「先生、今日の採血結果です」


私は、先生に今朝採血した検査結果を渡した。


いつもならつい見てしまう先生の横顔もなんとなく見ていられなくて、目を逸らした。


「結果は、良くなっています。


心配はいらないです。何か、気になることはありますか?」


いつものように先生が聞くと、北岡さんは首を傾げて考え始めた。


「なければいいですよ」



私がそう言うと、何かを思い出したのか「あっ!」と私の顔を指差した。