「私、回診の準備があるので失礼します」
高倉主任に頭を下げて、食堂を出ると、窓から吹き込む生ぬるい風が何とも気持ち悪かった。
「三井さん、今日の採血結果を持ってきてくれる?」
「はい!持ってきます」
私は回診の患者さんのカルテをチェックしながら、助手の三井さんに指示をした。
いつもは回診前に採血結果をパソコン上でチェックするのだが、今日は血液検査の機械の調子が悪くて結果が遅れるというので、まだ見ることができていない。
もうそろそろ結果が出るはずだから、三井さんに検査室まで取りに行ってもらった。
「今日の回診は何人?」
後ろから掛けられた声に体が固まってしまうくらい驚いた。
もうすぐここに来ることはわかっていても、動揺してしまった。
「15人です」
「ふぅん。始めますか」
いつもと変わりのない話し方のようだが、何か違う。
やっぱり怒っているのだろうか。―――言葉が冷たい―――そう感じた。
「あの・・・今日の採血結果がまで揃っていないので、少し待っていただけますか?」
「回診の時間は、わかってるはずやんな?じゃぁ、逆算してそれまでに用意しないと」
「機械の調子が悪くて・・・・・・」なんて言い訳は通用しない。
少なくとも、もう少し早く用意できたはず。
「すみません」
頭を下げ、謝ると同時に三井さんが走って戻って来た。