「何・・・・・・あの男!」
私の我慢は限界に達した。
隣にいる愛ちゃんは俯き涙を堪えているようだ。
「愛ちゃん、大丈夫?」
「はい・・・すみません」
いつもの元気な愛ちゃんの面影はゼロだ。
「あんなの気にしたらあかんよ」
「・・・でも、やっぱり私向いていないのかな?」
「まだ働き出して一年も経っていないのに、向いているかどうかなんてわからんよ。これから私がいろいろ教えてあげるから」
「百井さん・・・・」
愛ちゃんの目からは、今まで我慢していた涙があふれ出していた。
それより・・・あの男!あんなにきつい言葉を言うことないやん!
「愛ちゃん!ちょっと離れるから、何かあったらPHS鳴らしてね」
私はそう言って、再びナースステーションを飛び出した。
そして、数十分前にしたのと同じように医師当直室のドアを激しく叩いた。
「佐々木先生、失礼します」
私は遠慮なしに当直室に入ると、簡易ベッドに横になっている男は、「やっぱり来ると思った」と余裕の笑みを浮かべていた。
その表情に、さっきまでの勢いを失ってしまい、黙ってしまった。
「何か用があるんやろ?」
起き上がり、ベッドの端に座り足を組むと私に次の言葉を促した。
その言葉に我に返り、私は口を開いたが、どうも口調は弱くなっていた。
「・・・一年目の子にあんな言い方はないんじゃないですか?」
私の言葉に俺様ドクターの表情が変わった。
一瞬にして、私を射抜くような目になった。
「一年目だからって関係ない。白衣を着ていたら、患者からは一人前の看護師に見える。新人だからなんて患者さんには関係ない」
言い方はきついが、もっともだ。
この人の言っていることは間違っていない。
「そうですね・・・・・・。生意気なことをいってすみません」
悔しいけど完敗だ。私は目の前のドクターに頭を下げた。
「さっきの勢いはどうしたん?」
私が顔を上げると俺様ドクターは、再び少し笑みをこぼしていた。
「先生がおっしゃったことが正しいと思います。私達は、看護師という資格を手にしたプロですから、新人とかいう甘えは通用しません。申し訳ありませんでした。失礼いたします」
私は俺様ドクターの顔を見ることもできず、自分が言いたいことだけ言い、当直室を後にした。