食堂では、お昼のニュースが流れていた。
『昨夜、〇〇県××市で救急搬送中に病院を10件たらい回しにされ、83歳の女性が搬送先の病院で死亡が確認されました』
「あっ、佐々木先生だ!かっこいいよね!」
「この真剣な目がいいよね」
若いヘルパーさん達の声が耳に入って来る、それに混ざって聞きなれた声がした。
「佐々木先生はすごいよな」
私の隣の席を指して「隣いい?」とさりげなく入りこんできたのは束ちゃんだった。
「いいよ~」
軽く言うと、束ちゃんは人懐っこい笑顔で「サンキュ」と言いイスに座った。
「あ~疲れた~」
午前中の仕事が相当ハードだったのか、束ちゃんは机に突っ伏していた。
「お疲れ様」
いつものように短い言葉を掛けると、むくっと起き上がり、「こんなんじゃ、あかん!」と突然言い出した。
「何?急に」
「佐々木先生なんてさ、おばあちゃんが亡くなって、マスコミの前であんなに気丈に振舞って、疲れているはずなのに、そんな顔みせへんやん?
かっこいいよなぁ。大人の男って感じ」
確かに「疲れた」なんて一言もいわなかったなぁ。
まぁ、私が仕事モードで話しかけたからなのかな?
「なにそれ、ちょっと憧れていたりして?」
冗談っぽく言ったつもりだったが、束ちゃんは真剣な表情で「そうかも」と呟いた。