「高井さん、私は佐々木と言います。具合はどうですか?」
病室に入ってきた以上に穏やかな声になったことに驚いた。
こんな優しい声も出るんや。
さっきまで見ていた俺様ドクターがまるで別人になったようだ。
「もう痛くないです」
高井さんも先生の声に安心しているのか、いつもの笑顔で答えていた。
「そうですか。よかったですね。少しお腹を診ますね」
とベッドの端に座り、問診しながらゆっくりと高井さんの腹部を押さえはじめた。
時折「ここは痛くないですか?」と聞きながら。
「何を食べたんですか?」
「みかんと、もちと・・・」
「それはいくらなんでも食べすぎですよ。病院食だけにするようにして下さいね」
高井さんの非常識な食事内容にも、怒る様子もなく穏やかな診察だった。
この人は、本当に佐々木先生なのだろうか・・・?
どこかで入れ替わったのではないかと思うくらい柔かい口調だった。
私に背を向けているので、表情は見えないが、きっと優しい顔をしているのだろう。
「すみません」
高井さんは、申し訳なさそうに謝っていた。
「では、また変わったことがあれば言ってくださいね」
「はい。ありがとうございました」
高井さんは起き上がり、深々と頭を下げると、佐々木先生は「失礼します」
と言いドアの方へ向かった。
ナースステーションまでの廊下を速足で歩く佐々木先生の後を私は無言で追った。