「それと……俺、サボテンってかわいくて好きですよ」
「え?」

「ずっと見てました。川上さんのこと」

意味を理解するのに数秒かかって、小春はボー然と立ち尽くす。石田はそんな小春の手をひいて歩き出した。

「ちょ、ちょっと」
「送っていきます。サボテンは水をあげすぎると枯れちゃうんですよ」

だから濡れたら大変でしょ?と、いたずらっ子のような笑顔を浮かべながら傘を差し出す石田。

「もし明日も雨が降ったら、傘忘れてくださいね」

そのキラキラとした笑顔につられて、小春も思わず笑顔になる。


恋愛も、大好きだった旅行も犠牲にしてすべてを仕事のために費やしてきた。
それは他の誰でもない自分自身が選んで決めたことで、頑張りを認めて欲しいとか知って欲しいなんて望んだことはない。

でももしも、そんな自分を受け止めて傍で見ていてくれる人がいるならば、それは今自分と一緒に相合傘をして歩く、この陽だまりのような男の子だったらいいなと小春は思った。

もし明日また雨が降ったら、企画の相談をしてみよう。
お洒落な石田はきっと素敵なアイディアをくれるに違いない。

どんどん早くなっていく胸の鼓動を感じながら、小春は心の中で「明日も雨が降りますように」と神様に願った。


おわり