俺は自分の耳を疑った。
とても冗談を言っているような振る舞いではなかった為、信じざるを得なかった。
しかし非現実的すぎて、目の前の女性が嘘を言っていなかったとしても、整理がつくはずもなかった。
「あの……あなたが嘘を言ってないことは分かりました。でも俺は……」
昨日までの真実を言いかけてしまったが、何とか胃の辺りでそのセリフは留まってくれた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもないです。ところでその黒い看護服って何の意味があるんですか?」
何とか話を変えることができたが、正直看護服の色なんてどうでも良かった。
「はぁ……あなたいくつですか?」
「17歳ですけど……」
なぜ突然年を聞いてきたのか分からなかったが、それはすぐに理解することになった。
「じゃあ学校で習ったはずですよ。70年以上前に世界的事件があったことを」
「はぁ……」
さっきまで笑っていたかと思えば、突然真剣な表情を浮かべ話を続けた。
「西暦2016年、温暖化が急激に進んで地球の陸地が減ったんです。その中でも日本は陸地消滅が世界でトップクラスだったそうです」
次から次へと訳の分からないことを発言しているが、話を聞くに連れそれが真実だということを実感していった。
「その時何人もの人が亡くなりました。救助隊では人数が足りず、全国の医療関係の人たちも各地の被災地へ行き救助していました」
「……」
「泥だらけになりながら救助を続け、当然看護服を変えるよりも先に、一人でも多くの人たちを救助し続けていました。この看護服の色はその時の泥や汗、遺族の涙などの記憶を風化させない為の物です。……忘れられない、忘れてはいけないと言うことを肝に銘じ、医療に取り組んでいるんです」
言葉が出なかった。俺は昨日まで西暦2014年を過ごしていた。普段通り学校にも行っていた。
この話が真実なら、俺は70年以上先の未来に来たということになる。
(2年後にそんな事件があったのかよ……)
徐々にではあったが、真剣な眼差しで話してくれている女性に対しての不信感はなくなってきていた。
そして俺は溢れるように今まで抑えていた感情が表立ってしまった。
「あ、あの! 俺の家族は!? 彼女は!? なんで俺は入院してんの!?」
俺は思わず女性の両肩をつかみ、思いの丈をぶつけた。
「ちょっと! やめてください!」
その時だった。
扉から医者らしき男が走ってきた。
「どうした! 何してるんだお前!」
誰でも良かった。
「ねぇ!! あんたは知ってんの!? 俺の家族! 彼女!! ここはどこだよ!! 答えてよ!! ねぇ!! ねぇ!!」
俺は男の白衣ではなく黒衣を両手でつかみ、不安からか、自分でも分かる程の笑みを浮かべていた。
家族、大切な人の行方が分からず、パズルが崩れるように俺の心は崩壊しかけていた。
俺の行動を見てか、男は威嚇したような表情を瞬時に取り払った。
「……悪いが、君の家族や大切な人の行方は分からない。私が答えられるのはここは病院で、君が一ヶ月程前にここに運び込まれてきたということだけだ」
「一ヶ月前って……そんなに意識なかったのかよ」