うっすらと聞こえてくる秒針の音。その音は徐々に声量を増し、脳内に朝だと呼びかけてきた。

(もう朝かよ……)

普段なら、目覚まし時計が悲鳴を上げる時間まで寝ているはずだが、今日は不思議と目覚ましより先に起きることができた。

ボヤけた目を擦りながらベッドから起き上がり、歩きだそうとした時だった。

「は……?」

俺は何度も瞬きをし、これでもかと言わんばかりに目を見開いた。

(どこだよ……ここ)

出る言葉もないまま辺りを見渡し、精一杯状況を把握しようとした。

そして瞬時に把握できたことは、ここが病院だということ。

それは病院独特の薬のような匂い、そしてさっきまで寝ていた真っ白いベッドが俺に教えてくれたことだった。

昨日俺は学校から帰り、普段通り母親が作った夕飯を食べ、風呂を済ましてすぐに寝たはず。

そして今俺が立っている場所は完全に俺の部屋とは異なった場所。どう考えても理解ができずにいた。

呆然と立ち尽くしていた時、たった一つしかない扉がゆっくりと開いた。

「あ! 目を覚ましたんですか? お体は大丈夫ですか?」

扉の前に立っているのは20代前半くらいの女性。そして恐らく看護師。

俺がすぐに看護師だと確信できなかったのには理由があった。

「まぁ……目も覚ましたし体も大丈夫だけど……」

戸惑っているのが分かったのか、その女性は心配そうに近づいてきた。

「やっぱりまだ寝ていたほうがいいですよ」

「いや、ちょっと待ってください。」

「何ですか?」

俺は頭を抑え、目の前の女性に確認を取った。

しかし、昨日までの状況を説明したところで、相手にされるはずもないと思い、そのことだけは伏せた。

「えっと……まず、あなたは看護師の方ですか?」

その問いかけに、女性は呆れたような表情を浮かべ答えた。

「何言ってるんですか? ここは病院で、私が着ているのは看護服ですよね? やっぱり少し横になっていた方が……」

俺は女性の言葉を遮るように返答をした。

「何で白じゃないんですか?」

「……はい? 何がですか?」

「その看護服ですよ。普通は白ですよね。何で全身真っ黒なんですか?」

俺の発言に唖然としたような表情を浮かべたかと思うと、突然笑い出した。

「あははっ! 何言ってるんですか!? 看護服が白!? お腹痛い!」

こっちからすれば何がおかしくて笑っているのか全く理解ができなかった。

「……何が面白いんですか?」

俺は目線を女性から部屋へ、そして部屋から女性へ何度か移しながら女性の返答を待った。

「いや、面白いじゃないですか! だって看護服が白なんて70年以上も前の話ですよ?」

「……え?」