桜庭さんは思うところがあるのか、先程から険しい顔をしている。

「お前、邪魔だ」

「…俺?」


 次期キャッチャーに向かって、邪魔、と言い放つワンマンエースのワガママっぷりに、俺は呆然とした。

「裕貴、翔に向かって邪魔はないだろう。誰かがいると気が散るとは言わせないぞ」

「だって、市川さんが俺をちゃんと見てくれない」

 まるで子供のようなことを言う桜庭さんを、一瞬でも可愛いと思った自分を後々激しく後悔した。
 市川さんの勧めでキャッチャーを変わってみたが、俺のサインなんか全部無視。わざと体に球が当たるように投げてきた。

 だけど、ここで弱音を吐くのが悔しくて、市川さんが止めようと言うまで無意味な捕球練習は続いた。