甲子園からの凱旋で沸く高坂市で、俺たち東聖高校野球部は今や県民の英雄と化していた。夏の間は連日のマスコミ報道で、練習も遅々として進まないのに誰一人文句は言わなかった。
実際に甲子園の球場に上がることすらできなかった俺でさえ、こんなに清清しい気分は今まで体験したことがない。
あの魔物の棲む球場には、それほどの魔力が秘めているみたいだった。
甲子園初出場でベスト8まで上り詰めた東聖高校には、
「来年こそ全国制覇を!」
という期待が声高に叫ばれている。何しろ、マウンドを一人で守り抜いたエースはまだ二年生。5番で今年随一と騒がれた名スラッガーも次期キャプテンとして健在だ。
向かうところ敵なし。そう思われた東聖にも、唯一にして最大の盲点があった。
キャッチャーがいないのだ。