傘をさす必要はない。どうせ濡れることはわかっているから。


「サイー!!」


今すぐ会いたい人の名前を叫ぶ。


数人の通行人がこっちを見てきたけど、そんなのどうでもよかった。


「サイー!!」


君に会いたい。


会って、今すぐに伝えたい。


私にぶつかってきてくれた人が、これまで何人いた……?


―『涙には、何か夢とか、やりたいことはない?』


―『親に敷かれたレールの道と、無謀だとわかっていても自分の選んだ好きな道。選んで後悔するのはどっちだと思う?』


―『一度きりの人生なんだよ?涙の人生は涙のものでしかない。どうせ他人の決めた道を選んだって、大体の人は後悔する。それよりだったら、一か八かの選択でも、自分の可能性を信じてみたほうがいいと思う』


人との付き合いなんて、ずっと形だけだった…。


笑いたくもないのに笑って、言いたいことも言えなくて…


本気でぶつかられたことなんてない。だからといって自分からぶつかっていくわけでもない。


「本当の」自分をさらけ出さなきゃ、「本当の」人間関係も生まれやしないのに―・・






サイは、自分の本音をぶつけてくれた、初めての人間だった。


自分のマイナスの感情を表に引き出して、それを私と向き合わせてくれた。前に進むために、大切なヒントをくれていたのだ。