咲乃が知っていたくらいだ。


事故で亡くなった西高の生徒が奈々子の恋人であったこと、このクラスの人たちも認識しているだろう。


私は教室の中に入り、うつ伏せになっている奈々子へと歩み寄って行った。





「奈々子」


自分の声に反応するように……奈々子の指がピクリと揺れる。


そして…


「涙……?」


彼女はゆっくりと、伏せていた顔を上げた。同時に言葉を失ってしまう。


奈々子の目が……最初見たとき以上に大きく腫れ上がっていたから。


女の子なら誰もが羨む、あの綺麗で大きな二重の瞳はどこへ行ったのか…


「ふふっ……ひどい顔でしょ?」


腫れ上がった目を更に細めながら、奈々子は弱々しく笑う。それを見て、心臓が鷲掴みされたように痛くなった。


よっぽど……サイのこと、好きだったんだね……


ごめんね……


あなたの、その大切なひとに……


私は傷つけるようなことを、最低なことを言ってしまいました……


言葉にして謝りたいけど、それはできない。


幽霊が見えたなんて、心の不安定な今の奈々子には、とても話せるようなことじゃないから…。


それが彼女の恋人なら尚更…。