「あれ?涙、どこ行くのー?」


「ちょっと、トイレ」


携帯を片手に聞いてくる咲乃に、一言そう答える。私は教室を出た。


「トイレ」なんて言っといて、向かったのは4組の教室。


奈々子がいるんじゃないかって…


また保健室に行っている可能性もあった。最悪の場合、欠席だって…


だけど、4組の教室を覗き込んだ瞬間…


「あっ」


思わず短い声を上げる。





いた。奈々子がいた。


窓際の一番後ろの席…


前来たときは、筆箱とかばんだけだったのに……今は、イスの上にちゃんと奈々子がいる。


だけど……何かがいつもと違った。


普段なら、クラスの女の子数人に囲まれて、楽しそうに話しているのに……


そんなクラスの人たちは、今日は奈々子を遠巻きにしているように見える。奈々子も奈々子で、机に突っ伏しているし…


……って、無理もないか。


最愛の人が、事故でいきなり死んじゃったんだもんね…。周りも周りで、そんな彼女になんと声をかけたらいいのかわからないのだろう。


奈々子が笑ってくれていないからか……クラスがどんよりとして見える。


やっぱり、奈々子はみんなから愛されているんだね…。