奈々子の、大切な人なのに…


それなのに、私は…


「涙ー、起きてるの?さっさと学校の支度しなさい」


すぐ隣のリビングから…


自分の今の状況なんてしらない、母のそんな声が聞こえた。







「いってきます…」


結局、家のどこにもサイはいなかった。


諦めて玄関を出た私は、トボトボと学校への道のりを歩き出す。


サイは、どこに行ったんだろう…


右手にある通学カバンを、ギュッと握りしめたときだった。


―ポツ、ポツ…


「え…」


雨…?


突然、降り出した雫が頬を濡らす。


遠くの…向こう側の空からゴゴゴ…という音が聞こえた。雷が近いのかもしれない。


なんで傘を持ってこなかったんだろう…


そんなことを小さく悔みながら、私は走り出した。