そんな少女を見て、妖精は眉尻を少し下げて、右脚を組みながらゆっくり微笑んでみせる。

「……反対なんてしてませんよ。ただ、少し理不尽さを覚えただけです。それに……身体はまだもう少し掛かりそうですしね。ほら、まだ紗良里は高校生ですから」

妖精の姿を見て、紗良里はため息を吐いた。

「また嘘ついてる」
「まさか」
「隠してようと隠せてないわ。癖が三つ出てる」

紗良里は話口調が完全に敬語になること、眉尻が下がること、右脚を上に脚を組むことを妖精が嘘をつく時の癖として頭の中でのみ挙げながら、口では別のことを言った。

「だいたい、高校生なんてもう大人よ。そろそろ『容器』の役割だって果たせる筈だわ」
「とにかく、私がいいって言うまではだーめ。いいですね?」
「私ね。早く、死にたいのよ」
「そんなこと言うもんじゃない。私の居ない所で死んだら許さないですからね」

真剣な瞳でそう言う妖精は、既に脚も解いていてこちらに身を乗り出していた。
その様子に紗良里は一瞬言葉を詰まらせたが、やがてぽつり、と呟く。

「……だって私、醜いでしょう?」
「どこがです?だいたいね、私は別に濁花は嫌いじゃない。少なくとも紗良里の濁花はね」
「意味がわからないわ」
「こんなに綺麗な花じゃあないか。紗良里の白い髪の毛と良く合う。私は濁花憑きの紗良里、お姫様みたいで好きですよ」

その言葉に、白髪の少女は拗ねたように言葉を返す。

「そのお姫様には左肩に目もあるのかしら」
「その目も、綺麗な目じゃないか。ちゃんと見えるんでしょう?」
「見えるわ。気持ちが悪い」
「そうかねえ。とにかく、紗良里は私が持ってない『命』って宝を二つも持ってるんですよ。まあ濁花の方は紗良里が嫌いならしょうがないが、せめて人間の方の命だけでも大切にするべきだ」

言い聞かせるように妖精は話すが、それには答えずに紗良里は妖精に気になっていたことを問うた。

「事故の時に、私を生き返らせたの、妖精さんよね?」
「なんで私がそんなことするんです?紗良里はもともと、あの事故で死んでなんかいませんよ」

軽い調子で笑いながら言って、妖精はその長い脚を組んだ。